1.インドネシアの代理人制度 インドネシアには、「IPコンサルタント」 という資格があります。IPコンサルタント は、インドネシア特許庁1に対する手続を代 理するための資格で、日本の「弁理士」に相 当します2。 以前は、誰でもインドネシア特許庁に対す る手続を代理できた時代がありました。私自 身、IPコンサルタントになる前、ある人に特 許出願の代理を依頼したことがあります。し かし、彼のサービスは、お世辞にも適正なも のとはいえませんでした。 しかし、2005年に状況が一辺します。この 年発表された規則によって、代理業務を行う ための要件として、(a)知的財産に関する研修 を修了すること、(b)試験(以下「コンサルタ ント試験」という)に合格すること、(c)法務 人権省に登録申請することが課せられまし た。さらに、コンサルタント試験の受験資格 は、(a)インドネシア国籍を有すること、(b)大 学の学位(理工学系に限らない)を有するこ と、(c)公務員ではないこと、(d)一定の英語力 を有すること3、という要件を満たす者に与 えられることになりました。これにより、代 理人のレベルの適正化が図れたのです。
2.研 修
研修は、法務人権省が認定した大学によっ て行われます。私が受けた2009年の研修4 は、インドネシア大学のインドネシア知的財 産アカデミー(以下「IIPA」という)によ って行われました。IIPAは、WIPOとインド ネシア特許庁が設立した機関で、インドネシ ア大学の法学部に組み込まれています。 初日に40名ずつ5つのグループに分けら 研修は、法務人権省が認定した大学によっ て行われます。私が受けた2009年の研修4 は、インドネシア大学のインドネシア知的財 産アカデミー(以下「IIPA」という)によ って行われました。IIPAは、WIPOとインド ネシア特許庁が設立した機関で、インドネシ ア大学の法学部に組み込まれています。 初日に40名ずつ5つのグループに分けら
3.コンサルタント試験
研修終了後は、数日間にわたるコンサルタ ント試験(筆記試験)を受けました。 試験科目には、基本科目(特許、実用新 案、意匠、商標、著作権、地理的表示、営業 秘密、集積回路配置)の試験に加えて、ドラ フト試験も含まれます。なお、日本の弁理士 試験とは異なり、口述試験はありません。 基本課目の試験は選択式試験です。ちょう ど、日本の弁理士試験でいう短答式試験に相 当します。 一方、ドラフト試験は筆記試験です。図以 外の書面(明細書、クレーム、及び要約書) のドラフティングが試されます。私が受験し た2009年は、機械、電気、生物学/バイオテ クノロジー、化学、薬学の中から3つのテー マを選択しました。受験中は、すべての電子 機器の使用が禁止されているので、記憶と経 験が頼りの綱です。 多くの受験生にとって、ドラフト試験が最 大の難関です。私は、ドラフト試験対策講座 を受講しました。この講座には受験生の多く が申し込んでいました。私も、研修に加えて ドラフト試験対策講座を受講したことで、3 ヵ月間勉強漬けの日々を過ごしました。
4.登 録
コンサルタント試験が終了すると、卒業式 に出席し、IIPAの代表者(インドネシア大 学法学部長)から修了証を受け取りました。 卒業式を終えても、すぐにIPコンサルタン トになれるわけではありません。登録申請を 行った後、法務人権大臣と申請者が宣誓を行 う式典へ出席する必要があります。この式典 を終えるとIPコンサルタントとしての登録が 認められます。 なお、いったん登録すると、その後の登録 維持費用はかかりません。
〈宣誓式典で法務人権大臣(中央)と握手する著者(左)〉
5.むすび 受験生の大半は実務経験を持っていました が、法律や技術のバックグラウンドを持たな い受験生もいました。研修のコーディネータ は「法律や技術のバックグラウンドを持って いない人が合格するのは難しいかもね!」と いっていましたが、蓋を開けてみると、彼が いったとおりにはなりませんでした。これ は、インドネシアの代理人制度の問題の一端 を表していると思います。 私がIPコンサルタントを目指した動機は、 適正なサービスを受けられなかったという苦 い経験にあります。IPコンサルタントは、 2014年中に800人程になる見込みです。彼ら と共に、日本企業の要望にも応えられるIPコ ンサルタントを目指して活動していきたいと 思っています。
1 「法務人権省知的財産総局 (Directorate of General of IPR)」という。総局の下には、特 許局、商標局、審判部などがある。 2 インドネシア語では”Konsultan Hak Kekayaan Intelektual”。インドネシアIPコン サルタント協会(AKHKI)の文書には、”Intellectual Property Attorney”(知的財産弁 護士)とも訳されている。 3 TOEFLスコアによって判断される。 4 1回目の研修は2005年(修了者256名)、2 回目の研修は2009年(修了者201名)。
筆者紹介 Mr. Rohaldy Muluk(ロハルディ・ムルック) GIP ASEANインドネシアオフィス(Chapter One IP) 代表。1954年パダン(西スマトラ州)生まれ。ベルリン 工科大学卒業。専門は物理・機械。エンジニアとしてド イツで17年過ごした後、2004年より知的財産分野のキャ リアをスタート。2009年コンサルタント試験合格。2013 年よりGIP Unitedsに参加。趣味はスポーツ。 http://gip-asean.com/ http://www.chapterone-ip.com/
編集者紹介 木本大介(きもと・だいすけ) 日本弁理士、GIP東京特許業務法人所属。 1977年神奈川県生まれ。2003年上智大学大学院理工学研 究科電気電子工学修了。専門は通信、エレクトロニクス 及びコンピュータソフトウェア。企業(知財部)3年、 特許事務所7年の経験を経て、2013年7月より現職。 http://www.giplaw-tokyo.co.jp/jp/
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