ChapterOne-IP

The Indonesian Intellectual Property Service

インドネシア特許法改正に伴う新たな特許年金制度

Chapter One-IP 代表インドネシア弁理士 Rohaldy Muluk
グローバル・アイピー東京特許業務法人 代表弁理士 高橋 明雄

2016年8月26日、改正インドネシア特許法(The Law No. 13 of the Year 2016 regarding Patent)が施行された。実務に影響を及ぼす多くの項目が改正されたが、特に年金制度は大きく改正された。旧法(The Law No. 14 of the Year 2001 regarding Patent)における年金制度の問題点が法改正により解消されたことは、出願人や特許権者にとって朗報である。一方、期限管理の点で新たな留意点も出てきた。本稿では、旧法と改正法における年金制度を説明するとともに、経過措置についても説明する。
  1. はじめに
    世界第4位の人口約2億4,000万人を抱えるインドネシアは、将来的な市場としてのみならず生産拠点としても重要度が年々高まっている。そのため、日本企業からの特許出願や保有特許件数も増加傾向にある。一方、インドネシアの特許制度、特に、年金制度の運用には、不明確な点が多かった。
    旧法の年金制度の運用に対しては、特許権者のみならずインドネシア弁理士からも疑問が投げかけられていたが、2016年8月26日に施行された改正法によって問題点が解決されることとなった。一方、改正法によって年金納付期限の算出方法が変わったため、期限管理の重要性が高まった。
    本稿では、旧法と改正法における年金制度と、改正法において留意すべき期限管理について解説する。また、インドネシア特許庁(以下、「特許庁」)から通知されている経過措置についても解説する。
    なお、本稿における旧法の条文は、日本特許庁の外国産業財産権制度情報に公開されている「インドネシア特許法(2001年8月1日法律第14号改正)」を参照し、条文番号に「旧法」と明記する。また、改正法の条文については、条文番号のみを付す。
  2. 旧法の特許年金制度
    2.1 特許年金の起算日と納付期限
    インドネシアの年金の起算日と納付期限については、旧法第114条に規定されている。

    旧法第114条
    ⑴ 第1回目の年金の納付は、特許付与の日から起算して遅くとも1年以内になされなければならない。
    ⑵ その後の年金納付は、当該特許が存続する限り、遅くとも当該特許付与の日又はライセンスの記録の日と同日までになされなければならない。
    ⑶ ⑴にいう年金は出願の最初の年から起算される。

    インドネシアの年金は出願日が起算日となる(旧法第114条⑶)。そして、出願日から特許付与日が属する年までの年金を、特許付与日から1年以内に第1回目の年金として納付する必要がある(旧法第114条⑴)。第2回目以降の年金納付期限は、特許付与日が基準日となる(旧法第114条⑵)。
    2.2 年金未納の場合の取り扱い
    多くの国では年金の納付を停止すると、特許権は自動的に消滅する。しかし、インドネシアでは特許権者が特許の取り消し請求をしない限り、年金の納付を停止しても少なくとも3年間は特許権が存続する。
    年金を継続して3年間納付しなかった場合、特許庁は未納年から3年目の納付期日において特許の取り消しを宣言する(旧法第88条、旧法第115条⑴)。これにより、特許権は消滅する(旧法第89条⑴)。

    旧法第88条
    特許は、特許権者が本法で定める期間内に年金を納付する義務を履行しない場合、法律による取り消しを宣言される。
    旧法第89条
    ⑴ 法律による特許の取り消しは、特許権者及び実施権者に対して総局により書面で通知され、かつ当該通知の日から効力を発生する。
    ⑵ 第88条にいう理由による特許の取り消しは記録され、かつ公告される。
    旧法第115条
    ⑴ 特許権者が継続して3年間第18条及び第114条に定める年金の納付をしなかった場合、特許は当該3年目に対する納付期限の日において法律による取り消しを宣言される。
    ⑵ 年金納付義務の不履行が、18年目及びその後の年金に関する場合、特許は当該年に対する年金の納付義務の期限到来時に消滅したものとみなされる。
    ⑶ ⑴及び⑵にいう理由による特許取消は記録され、かつ公告される。

    しかし、実際には、特許権者が継続して3年間年金を納付しなかったとしても、特許庁が直ちに特許の取り消しを宣言するわけではない。年金の納付を停止してから5年以上経過して、特許庁が特許の取り消しを宣言したケースもある。
    ここで、日本特許庁の外国産業財産権制度情報に公開されている条文の翻訳文には含まれていないが、旧法第115条⑴には以下の説明が含まれている。
    「3年間の期間は、特許権者が特許発明の実施を検討するのに十分な時間を与えるためのものである。年金未納による特許の取り消しは、総局から特許権者に対して書面で通知される。当該通知は本条によって定められる当該特許が取り消される日付を示す。3年間に渡り支払われなかった年金は、当該特許権者によって支払われるべき負債として残る。」
    多くの国では年金の納付を停止すると特許権が消滅するため、特許年金を納付していない期間に対して特許権が存在することはない。しかし、インドネシアでは特許権者が特許の取り消し請求をしない限り、年金の納付停止から少なくとも3年間は特許権が存続するため、年金を納付していない期間に対して特許権が存在する。旧法第115条⑴の説明によれば、特許権が存在している期間に対して納付されていない年金は、特許権者によって支払われるべき負債として残ることになる。
    2.3 近年の状況
    2.3.1 旧法第89条による取り消し
    3年以上年金が納付されていない特許権のインドネシア代理人に対して、2013年頃から特許庁が通知を送付した。特許庁がインドネシア代理人とうまく連絡が取れなかった場合には、特許庁から特許権者に対して直接通知が送付されたケースもある。2013年以降、インドネシアの特許事務所関係者の間でも当該通知にどのように対応すべきか、大きな話題になっていた。
    特許庁によれば、2014年には旧法第89条の規定によって3,000件以上の特許が取り消された。
    2.3.2 特許権者が支払うべき負債
    上述したとおり旧法第115条⑴の説明によれば、特許権が存在している期間に対して納付されていない年金は、特許権者によって支払われるべき負債として残る。
    また、未納の年金については、月2.5%の追徴金が課せられる(旧法第116条⑴)。

    旧法第116条
    ⑴ 第114条⑶及び第115条⑵にいう場合を除き、本法に定める期限に対する年金納付の遅延は、遅れた年の年金に毎月2.5%の追徴金が課せられる。
    ⑵ ⑴にいう年金納付の遅延は、所定の期限の経過後7日以内に総局より特許権者に対して書面で通知される。
    ⑶ ⑵にいう通知書が関係当事者により受領されなかったとしても、⑴にいう規定の有効性を損なうものではない。

    旧法第89条の規定により取り消された特許の特許権者が未納の年金を納付しなかった場合の罰則については分かっていない。これは、未納の年金などの債権を回収する権限を特許庁が有していないことも関連している。債権を回収する権限は、財務省の下部組織であるPanitia Urusan Piutang Negara (PUPN)が有している。PUPNがこれまでに未納の年金の債権を実際に回収したことはないため、具体的な債権回収手続については分かっていない。
    2.4 対応策
    特許権を放棄するためには、特許権者は特許庁に対して特許の取り消し請求を行う必要がある(旧法第90条)。なお、特許庁が特許の取り消しを宣言するまでは年金を納付する義務があるため、特許権の放棄を決断したら速やかに特許の取り消し請求を行うことが好ましい。

    旧法第90条
    ⑴ 特許は、総局に対して書面で提出された特許権者の請求に基づき、その全部又は一部を総局により取り消される。
    ⑵ 実施権者が、当該取消の請求に添付される書面による承諾を与えない場合、⑴にいう特許の取り消しは行うことができない。
    ⑶ 特許の取り消しの決定は、実施権者に対して総局より書面で通知される。
    ⑷ ⑴にいう理由による特許の取り消しの決定は記録され、かつ公告される。
    ⑸ 特許の取り消しは,当該取り消しに関する総局の決定がなされた日から効力を発生する。

    上述したように、特許権を放棄するつもりで年金の納付を停止しても特許権が自動的に消滅することはない。特許権者が支払うべき負債を支払わなかった場合の罰則についてはよく分かっていないが、不測の事態を避けるためにも、年金の納付を停止する場合には、特許の取り消しを請求すべきである。

  3. 新たな特許年金制度
    3.1 新たな年金制度の概要(第126条)
    インドネシアでは特許が付与された後に特許証が発行される。そのため、特許付与日(Granting Date)と特許証発行日(Certificate Date)は、同日になるとは限らない。最短では特許付与日に、最長では特許付与日から2ヶ月後に特許証が発行される。表1は、出願日が2014年4月1日、特許付与日と特許証発行日がいずれも2017年1月5日である例を示す。
    最初の年金納付期限は、特許証発行日から6ヶ月である。表1の例では、特許証発行日である2017年1月5日から6ヶ月後である2017年7月4日1が第1回年金納付期限となる。
    最初の年金納付期限までに、出願日の属する年から特許付与日の属する年とその翌年までの年金を納付する必要がある。表1の例では、特許付与日である2017年1月5日は第3年度(2016年4月1日~2017年3月31日)に属するため、第1年度から第4年度までの年金を納付する必要がある。
    インドネシア特許法改正に伴う新たな特許年金制度
    【表1】 年金納付期限の一例

    出願日 2014/04/01
    特許付与日 2017/01/05
    特許証発行日 2017/01/05
    第1回年金納付期限 2017/07/04 2014/04/01~2017/03/31
    (第1年度~第3年度)
    +2017/04/01~2018/03/31
    (第4年度)
    第2回年金納付期限 2018/03/02 2018/04/01~2019/03/31
    (第5年度)

    第2回以降の年金納付期限は、次年度の出願日の1ヶ月前である(第126条⑶)。表1の例では、次年度の出願日である2018年4月1日の1ヶ月前である2018年3月2日2が年金納付期限となる。
    年金納付期限までに年金が納付されない場合、長官(The Minister)は30日以内3に特許権者に対して取消の決定を書面で4通知する。その後、既に年金が納付されている期間が経過すると、直ちに特許の取消が宣言される5(第128条⑴)。表1の例では、2018年3月2日までに第2回目の年金が納付されない場合、30日以内に長官が特許権者に対して取消の決定を書面で通知し、2018年4月1日に特許の取消が宣言される。
    つまり、法改正後は、特許を放棄する場合に、特許権者が特許の取り消しを請求する必要はない。
    3.2 年金納付期限の延長
    特許権者は、長官に対して年金納付期限の延長を請求することができる(第128条⑵)。延長の請求は、年金納付期限の7営業日前までに提出されなければならない(第128条⑶)。これにより年金納付期限が12ヶ月延長される(第128条⑷)。但し、年金と同額の割増年金の納付が必要となる(第128条⑸)。
    年金納付期限を延長し、年金が納付されていない間、特許権者は独占排他権を有していない。
    3.3 在外特許権者による年金の納付
    インドネシアに居住していない特許権者は、インドネシア弁理士によって年金を納付しなければならない(第127条⑵)。

  4. 期限管理上の注意点
    4.1 第1回年金納付期限
    旧法の第1回年金納付期限は特許付与日から1年以内であったのに対し(旧法第114条⑴)、改正法では特許証発行日から6ヶ月以内となった(第126条)。旧法の第1回年金納付期限のまま期限管理を継続してしまうと改正法の第1回年金納付期限を徒過してしまうため、現地代理人からのレターに記載される第1回年金納付期限についても慎重に確認することが好ましい。
    4.2 第2回以降の年金納付期限
    旧法では第2回以降の年金納付期限は特許付与日が基準となるのに対し(旧法第114条⑵)、改正法では出願日の1ヶ月前が基準となる(第126条⑶)。通常、特許付与日と出願日の1ヶ月前とは異なるものであるため、現地代理人からのレターに記載される第2回以降の年金納付期限についても慎重に確認することが好ましい。
    参考のため、旧法における年金納付期限の一例を表2に示す。
    【表2】 年金納付期限の一例(旧法)

    出願日 2010/04/01
    特許付与日 2013/01/05
    第1回年金納付期限 2014/01/04 2010/04/01~2013/03/31
    (第1年度~第3年度)
    第2回年金納付期限 2015/01/05 2013/04/01~2014/03/31
    (第4年度)
  5. 経過措置
    5.1 2016年8月25日以前に年金納付期限が到来するケース
    2016年8月25日以前に年金納付期限が到来し、当該年金が納付されていない場合、旧法が適用される。
    5.2 2016年8月26日以降に年金納付期限が到来するケース
    2016年8月26日以降に年金納付期限が到来し、当該年金及び割増年金が納付されていない場合、改正法が適用される。
    但し、2016年9月30日付のCircular Letter(No. HKI.3-08.OT.02.02 Year 2016)によれば、2016年12月30日までに2016年及び2017年の保護に対して納付されるべき年金を納付することができる。2016年12月30日までに年金が納付されない場合、第134条⑴の規定に基づいて特許は取消を宣言される。
  6. おわりに
    2016年のインドネシア特許法改正に関する情報は、施行日前後にインドネシア特許事務所から慌しく送られてきた印象がある。経過措置が後から通知されていることからも明らかなように、十分な周知期間が与えられたものではないことは確かである。本稿は執筆時点において可能な限り正確な情報に基づいて執筆したものであるが、新たな特許年金制度に関しても今後、条文解釈が不明確な点が明らかになるなど、運用が変更される可能性がある点に留意されたい。

 

【著者紹介】

rohaldy-muluk Rohaldy Muluk(ロハーディ・ムルック)。Chapter One-IP 代表インドネシア弁理士。ベルリン大学(ドイツ)にて機械工学修士号取得。自動車メーカーで勤務した後、インドネシア弁理士となる。正確な技術理解に基づくインドネシア語での特許明細書作成を得意とする。
http://www.chapterone-ip.com/
chapter-one 高橋明雄。グローバル・アイピー東京特許業務法人 代表弁理士。2003年、東京大学理学部物理学科卒業。2005年、東京大学理学系研究科物理学専攻修士課程修了。2005年よりキヤノン株式会社(知的財産法務本部)にて国内外の特許業務に従事した後、2009年にグローバル・アイピー東京特許業務法人に入所。2010年12月から2年間、ワシントンDCの特許事務所に駐在。2010年にU.S. Patent Agent試験合格。2013年1月より現職。外国特許実務に関するセミナーを多数担当し、海外代理人とのコミュニケーションを重視した外国出願サポート業務を得意とする。
http://www.giplaw-tokyo.co.jp/jp/

New Patent Annuity according to Law no. 13-2016 as published in IP Prism, Dec 2016