ChapterOne-IP

The Indonesian Intellectual Property Service

インドネシア特許年金制度に関する留意点

[2015/4/10]

 企業が特許権を維持するために、多くの国では特許年金の納付が必要であり、特許件数が多いとその分莫大なコストになる。そのため、特許権者は自社や競合他社の製品動向から保有する特許権の重要性を再考し、コスト管理の面から不要な特許権を選別する必要がある。不要な特許権については、通常、特許年金の納付を停止すればそのまま自動的に消滅できた。しかし、成長市場として注目されるインドネシアでは事情が異なる。インドネシアでは、特許権者が特許権の取り消し請求をしない限り、特許年金の納付停止から少なくとも3年間は特許権が存続する。インドネシアの特許事情に詳しいChapter One-IP代表でインドネシア弁理士のRohaldy Muluk氏は、「特許権が存在している期間に対して納付されていない特許年金は、特許権者によって支払われるべき負債として残る。特許権の放棄を決断した段階で、特許権者は速やかに特許庁に取り消し請求を行うことが重要」と日本企業に注意を促す。同氏と、グローバル・アイピー東京特許業務法人・代表弁理士の高橋明雄氏の両氏が、2015年1月に訪問したインドネシア特許庁担当者への取材内容をもとに、インドネシア特許年金制度における日本企業が留意すべき事項を解説する。

なお、本稿におけるインドネシア特許法の条文は、日本特許庁の外国産業財産権制度情報に公開されている『インドネシア特許法(2001年8月1日法律第14号改正)』を参照した(関連資料1)。

1.インドネシア特許年金制度の概要

~特許年金の支払いを停止するだけでは特許権は消滅しない

(1)特許年金の起算日と納付期限

インドネシアの特許年金の起算日と納付期限については、114条に規定されている。

 

第114条
(1)第1回目の年金の納付は、特許付与の日から起算して遅くとも1年以内になされなければならない。
(2)その後の年金納付は、当該特許が存続する限り、遅くとも当該特許付与の日又はライセンスの記録の日と同日までになされなければならない。
(3)(1)にいう年金は出願の最初の年から起算される。

 

インドネシアの特許年金は出願日が起算日となる(114条(3))。そして、出願日から特許付与の日が属する年までの特許年金を、特許付与の日から1年以内に第1回目の年金として納付する必要がある(114条(1))。2回目以降の特許年金の納付期限は、特許付与の日が基準日となる(114条(2))。
権利化段階で特許年金の納付が不要である点において、インドネシアと日本の特許年金制度は同じである。一方、出願から権利化までの期間が長くなるほど第1回目の年金納付額が大きくなる点において、インドネシアの特許年金制度は日本の制度と異なる。そのため、インドネシアでは出願段階から特許年金も考慮して予算を管理することが好ましい。

(2)特許年金未納の場合の取り扱い

多くの国では特許年金の納付を停止すると、特許権は自動的に消滅する。しかし、インドネシアでは特許権者が特許権の取り消し請求をしない限り、特許年金の納付を停止しても少なくとも3年間は特許権が存続する。
特許年金を継続して3年間納付しなかった場合、インドネシア特許庁は未納年から3年目の納付期日において特許権の取り消しを宣言し(88条、115条(1))、これにより特許権は消滅することが特許法に規定されている(89条(1))。

 

第88条
特許は、特許権者が本法で定める期間内に年金を納付する義務を履行しない場合、法律による取り消しを宣言される。
第89条
(1)法律による特許の取り消しは、特許権者及び実施権者に対して総局により書面で通知され、かつ当該通知の日から効力を発生する。
(2)第88条にいう理由による特許の取り消しは記録され、かつ公告される。
第115条
(1)特許権者が継続して3年間第18条及び第114条に定める年金の納付をしなかった場合、特許は当該3年目に対する納付期限の日において法律による取り消しを宣言される。
(2)年金納付義務の不履行が、18年目及びその後の年金に関する場合、特許は当該年に対する年金の納付義務の期限到来時に消滅したものとみなされる。
(3)(1)及び(2)にいう理由による特許取消は記録され、かつ公告される。

 

しかし、特許権者が継続して3年間特許年金を納付しなかった場合、現実的にはインドネシア特許庁が直ちに特許権の取り消しを宣言するわけではない。特許年金の納付を停止してから5年以上経過して、インドネシア特許庁が特許権の取り消しを宣言したケースもある。

ここで、日本特許庁の外国産業財産権制度情報に公開されている条文の翻訳文には含まれていないが、115条(1)には以下の説明が含まれている(関連資料2)。

3年間の期間は、特許権者が特許発明の実施を検討するのに十分な時間を与えるためのものである。年金未納による特許の取り消しは、総局から特許権者に対して書面で通知される。当該通知は本条によって定められる当該特許が取り消される日付を示す。3年間に渡り支払われなかった年金は、当該特許権者によって支払われるべき負債として残る。

多くの国では特許年金の納付を停止すると特許権が消滅するため、特許年金を納付していない期間に対して特許権が存在することはない。しかし、インドネシアでは特許権者が特許権の取り消し請求をしない限り、特許年金の納付停止から少なくとも3年間は特許権が存続するため、特許年金を納付していない期間に対して特許権が存在することがある。115条(1)の説明によれば、特許権が存在している期間に対して納付されていない特許年金は、特許権者によって支払われるべき負債として残ることになる。

2.近年の状況

~2014年は3000件以上の特許が取り消しに

(1)89条による取り消し

3年以上特許年金が納付されていない特許権のインドネシア代理人に対して、2013年頃からインドネシア特許庁が通知を送付した。インドネシア代理人とうまく連絡が取れなかった場合など、インドネシア特許庁から特許権者に対して直接通知が送付されたケースもある。2013年以降、インドネシアの特許事務所関係者の間でも当該通知にどのように対応すべきか、大きな話題になっていた。
インドネシア特許庁によれば、2014年には89条の規定によって3000件以上の特許が取り消された(関連資料3)。

(2)特許権者が支払うべき負債

上述したとおり115条(1)の説明によれば、特許権が存在している期間に対して納付されていない特許年金は、特許権者によって支払われるべき負債として残る。
また、未納の特許年金については、月2.5%の追徴金が課せられる(116条(1))。

 

第116条
(1)第114条(3)及び第115条(2)にいう場合を除き、本法に定める期限に対する年金納付の遅延は、遅れた年の年金に毎月2.5%の追徴金が課せられる。
(2)(1)にいう年金納付の遅延は、所定の期限の経過後7日以内に総局より特許権者に対して書面で通知される。
(3)(2)にいう通知書が関係当事者により受領されなかったとしても,(1)にいう規定の有効性を損なうものではない。

 

89条の規定により取り消された特許権の特許権者が未納の特許年金を支払わなかった場合の罰則については分かっていない。これは、未納の特許年金などの債権を回収する権限を特許庁が有していないことも関連している。債権を回収する権限は、財務省の下部組織であるPanitia Urusan Piutang Negara (PUPN)が有している(関連資料4)。PUPNがこれまでに未納の特許年金の債権を実際に回収したことはないため、具体的な債権回収手続については分かっていない。

3.対応策

~特許権が不要になったら取り消し請求を

特許権を放棄する場合、特許権者はインドネシア特許庁に対して特許権の取り消し請求を行う必要がある(90条)。なお、インドネシア特許庁が特許権の取り消しを宣言するまでは、特許年金を納付する義務があるため、特許権の放棄を決断したら速やかに特許権の取り消し請求を行うことが好ましい。

 

第90条
(1)特許は、総局に対して書面で提出された特許権者の請求に基づき、その全部又は一部を総局により取り消される。
(2)実施権者が、当該取消の請求に添付される書面による承諾を与えない場合、(1)にいう特許の取り消しは行うことができない。
(3)特許の取り消しの決定は、実施権者に対して総局より書面で通知される。
(4)(1)にいう理由による特許の取り消しの決定は記録され、かつ公告される。
(5)特許の取り消しは,当該取り消しに関する総局の決定がなされた日から効力を発生する。

 

上述したように、特許権を放棄するつもりで特許年金の納付を停止しても特許権が自動的に消滅することはない。特許権者が支払うべき負債を支払わなかった場合の罰則についてはよく分かっていないが、懸念事項をできる限り少なくするためにも、特許権の取り消し請求をせずに特許年金の納付を停止することは避けるべきである。
2015年1月30日付のインドネシア特許庁からの通知には、特許権者からの請求により取り消された特許権の特許番号と未納の特許年金総額を記した表が掲載されている(関連資料5)。このことからも、インドネシア特許庁としては115条(1)の説明を根拠として特許権が消滅するまでの特許年金の支払いを特許権者に求める方針であることが分かる。

4.おわりに

インドネシアで特許権を放棄する場合、特許年金の納付を停止するだけでは足りず、特許権の取り消し請求を行う必要がある。特許権の放棄を決断した段階で、特許権者は速やかにインドネシア特許庁に取り消し請求を行うことが重要である。

 

[Rohaldy Muluk 氏プロフィール]
Chapter One-IP 代表 インドネシア弁理士

ベルリン大学(ドイツ)にて機械工学修士号取得。自動車メーカーで勤務した後、インドネシア弁理士となる。正確な技術理解に基づくインドネシア語での特許明細書作成を得意とする。

 

[高橋明雄氏プロフィール]
グローバル・アイピー東京特許業務法人 代表弁理士

東京大学理学部物理学科、東京大学理学系研究科物理学専攻修士課程修了。2005年よりキヤノン株式会社(知的財産法務本部)にて国内外の特許業務に従事した後、2009年にグローバル・アイピー東京特許業務法人に入所。2010年12月から2年間、ワシントンDCの特許事務所(GLOBAL IP Counselors, LLP.)に駐在。2010年にU.S. Patent Agent試験合格。2013年1月より現職。外国特許実務に関するセミナーを多数担当し、海外代理人とのコミュニケーションを重視した外国出願サポート業務を得意とする。

 

http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/etc/20150410.html